もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
三階まで駆け上がる幸助。
一目散に駆け込んだのはテニスコートを一望できるあの部屋。
「なーに黄昏てんだよ。」
窓に肘をつきながら翔太が外を眺めていた。
「……うん。」
気のない返事。
幸助は静かに扉を閉めると翔太の隣に立つ。
「快太はバカだから直球でしか物を言えないんだよ。あいつ悪気がないだけに……効くんだよな。」
翔太はその言葉で悟る。
「幸助も……?」
幸助は、ふっと笑う。
「3ヶ月も居られなかったけどテニス部辞めた時からずっと、今は口には出さないけどあいつはオレを待ってると思うよ。」
「……あっ。」
翔太が何かを見つけて、あっとこぼす。
いや、幸助も同時だったかもしれない。
テニスコートに駈けてきた快太。
それに引っ張られるマッキーも。
「毎日朝から晩まで楽しそうにテニスしてくれちゃってさ……まったく。」
そう呟いて幸助はティンパニの前に立つ。
赤い袋からスティックを取出し、ゆっくりと深呼吸をした。
タタタタン。
軽快なリズムが打ち出され、時折ハネて、たまに転ぶ。
それでも愉しげなそんなリズム。
「……それもしかして。」
翔太の声に幸助が手を止めた。
「おっ、わかった?快太イメージして叩いてみたんだ。バカっぽいだろ?」
「……ぷっ。はははは。」
2人して笑った。
豪快な陽射しが翔太の決心を揺るがす事態を招こうとしているとも知らないで。