もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
次の日。

翔太は改めて新谷二中を訪れていた。

前の制服はブレザーだった為に、学ランの中に混じると妙に目立ってしまっている。

「誰だろあれ……他中の子かな?」

「もしかして転校生じゃない?ちょっと私タイプかもー」

セーラー服を着た女の子が翔太を見ながらそう言った。

翔太は気にする気配もなくツカツカと自分の新しく入るクラスへと向かっていく。





玄関には各クラス毎に分けられた下駄箱が並んでいる。

「確かとりあえず空いてる所に入れてくれとか言ってたな……」

荒川。井上。今泉……下駄箱は出席番号順で、左の列から上から順に割り振られているようだ。

翔太は誰の名前も書かれていない場所に靴を入れると、真新しい上靴をカバンから取り出した。

「おっ、佐野くんお早う。今日からよろしくな」

するとちょうど担任の粕谷先生が廊下から現れた。

転校が決まったときに簡単な三者面談があったので担任の顔は覚えていた。

「あ、お早うございます。宜しくお願いします」

丁寧な挨拶をする翔太に、担任の若い男性教師・粕谷は少し驚く。

そして同時に感心した。

「しっかりしてるなー君。カイタにも見習わせたいよ」

「……カイタ?」

2人は歩きながら教室まで話をした。

「そ、柏木快太。ウチのクラスにいるチビで落ち着きの無いバカ」

両親と一緒に挨拶に来た日。

担任として紹介された時、一目で粕谷からはひょうひょうとしている印象を受けた。

「自分の生徒をそんな……」

「ん?まずいかなぁ。まずいよな。でも本当だから仕方がない」

「……はぁ」

どこがどうと聞かれたら答えられないけれど、多分口ではそんなことを言いながら、どこか誇らしげな目をしている。こんな所にそう感じさせられたのかもしれない。

「君が転校してきてくれて良かったよ」

唐突に言われて、翔太は部活のことで言われているのだと思った。

俯きながら小さく言う。

「いや、オレはもうテニスは……」


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