もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「テニス?へー君テニスやってたのか」
「えっ――」
粕谷は新たな発見をした子供の様な目で翔太を見ていた。
翔太は自意識過剰な自分の反応を少し恥ずかしく思いながらも安心した。
「そっか。知らないんだオレのこと……良かった」
翔太は胸を撫で下ろすのだった。
階段を上がって右側、二階の一番端の教室が新しい翔太のクラス。
「さ、ようこそ3年4組へ。」
ガラガラッと開けると、バラバラに話をしていた生徒達が席に着いた。
翔太はクラスを見渡す。
「チビで、落ち着きがなくて、バカ――あれ?」
粕谷がさっき言っていた生徒を探してみたけれど、どうもそれらしい男の子は見当たらなかった。
すると翔太は一番前の窓際の席が空いていることに気付いた。
「おい委員長、カイタのバカはどうした?」
「いえ、いつもの如く――」
「遅刻か。あいつは本当に……」
柔らかな雰囲気が教室に広がる。
翔太は唐突に良いクラスなのだと思った。
それは教師と生徒の関係とは少し違うかもしれないけれど、翔太が心なしか求めていたものであったからだろう。
「さて、皆ももう気付いているかもしれないけど。この子が今日から皆と一緒に勉強することにな――」
「ゴメン、カスッチ寝坊したーっ!!」
壊れるんじゃないかと思うくらい力強く扉が開かれ、大きな音が教室に響き渡った。
息を切らしながら登場したのは、髪が寝癖でボサボサになった小柄な男の子だった。
「お前な……何度遅刻したら気が済むんだカイタ」
「だからゴメンって言ったじゃんよカスっち。なぁ皆」
ははは。と教室が明るい笑い声に包まれる。
教師をあだ名で呼ぶ生徒。
生徒をバカ呼ばわりする変な教師。
翔太は笑っていた。