もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
翔太は呆然とその小さな後ろ姿を見つめていた。
享もまた同じ。
「ったくあのバカ、やってくれるぜ」
快太は小さく肩で息をしていた。
手に残る感触を確かめているのかずっとラケットを握る自分の震える、右手を見つめている。
そしてゆっくりと相手コートに転がるボールに目を写した。
そこでようやく自分のボレーが決まったことを自覚したらしい。
「いよっしゃあああああああああ!!」
両手を振り上げて叫ぶ快太。
何故だかそのプレーを目の当たりにした全ての者が、一番小さなそのプレーヤーが大きく見えていた。
享は始めて快太に目を向けた。
「・・・・・・」
何も言葉を発してはいなかったが、その真っ直ぐな視線は確かに快太をプレーヤーとして見つめていた。
「これで2-1(トゥー、ワン)だ。続けようぜ」
快太の言葉に享が初めて笑った。
「ああ・・・」
そう言って二人が位置につこうとした時だった。
「お前らいったい何をしているんだ!!
そこのお前、他校で揉め事を起こすとはどういうことだ!!」
テニスコートの入口から怒鳴り声が響き渡る。
生活指導と体育の担当をしている松林の登場に誰もが背筋を凍らせた。
「ちっ邪魔が入ったか。
思っていたより楽しかったぜ。次は県大会で会おう」
享はベンチにかかっていたジャケットを取ると、テニスコート奥の塀を乗り越えて逃走した。
享のいなくなったテニスコートにはその後日が暮れるまで松林の説教が続いたという。