もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
それから一週間が経ち。
「・・・はい、本当に申し訳ありません。
わがままばかりで」
翔太は音楽教官室で顧問に頭を下げていた。
その机には退部届けが広がっている。
「ま、学生なんてもんはわがままなもんだし、あたし個人の意見としてはそうあるべきと思っているから文句はないよ。やりたいことやりな」
「ありがとうございます」
最後に深くお辞儀をして翔太は出て行く。
歩いているといつもの教室から打楽器の軽快な音が聞こえてきた。
幸助は翔太に気づくとにかっと笑顔を見せた。
翔太は一歩一歩決意を固めるかのように歩いていく。
その手には一枚の紙が握られている。
校舎から出てその場所に改めて入ると翔太は身震いがした。
ゆっくりと歩いていく。
そして一枚の紙をミーティングをしていた顧問に渡す。
「歓迎するよ。佐野翔太くん。
改めて挨拶を」
「はい」
先週の一件で部員はたったの6人に減っていた。
残った部員は正直頼もしいとは言い難い。
それでも翔太はその顔ぶれを見てすぐに理解するのだった。
「改めまして今日からテニス部に入部します佐野翔太です。
僕は・・・君たちのようなテニスが好きな人たちと一緒に活動できることが何よりも嬉しい」
残った部員は快太やマッキーを始め下手でもただひたすらにボールを追い掛けテニスを楽しんでいる者たちであった。
それは競技テニスに疲れてしまっていた翔太にとって最も望む仲間でもあった。
快太が手を差し伸べる。
「佐野君、一緒に打とうぜ!!」
快太の笑顔。
翔太はゆっくりと手を握り返す。
「ごめん、一緒に打つことはできない」
「・・・・・は?」
翔太の言葉に呆気にとられる部員。
顧問が申し訳なさそうに口を開いた。
「あー、なんだ?その、あれだよ。
お前らも知っての通り俺はほらテニス経験ないからさ。コートを申請して取ったり、練習試合の相手を探したりは出来てもな・・・わかるだろ?
だから、ほれ、佐野君はせっかくの全中経験者だっていうじゃないかだから俺の代わりにお前たちのコーチとして部活に参加してくれることになったんだよ」
快太は翔太の手を握りながら口をあんぐりと開けていた。
「そういうことだからゴメンね。でもコーチとして君たちのサポートはしていくつもりだから、宜しくね快太」
「なっ・・・」
翔太の笑顔。
部員は顔を見合わせ、快晴の空に響く快太の叫び声。
「なんじゃそりゃあああ!!」
こうしてここに史上初?中学生による中学生を指導するコーチングストーリーが始まるのであった。