もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「猿?猿を捕まえるとか考えたことない
」
快太をじっと見つめ猿に脳内変換。
「ぷっ」
意外とすんなり頭の中で猿化できたことに笑うマッキー。
イメージしてみるとこれまでの自分の追いかけかたが間違いであったことに気付く。
「なるほど、ただまっすぐ追いかけ続けてもダメってことか……」
そして、マッキーは足を止めた。
それをみた翔太は微笑み、快太は不思議そうに自分も足を止める。
この練習のみそはコート内を走らなければならないと言うルールにある。
テニスコート内といえど無策に走り回れば横約11メートル、約縦24メートル。
1人ならば自在に動き回ることができるだけの面積がある。
しかしこの平地をコートの端が壁であると仮定して、まっすぐ追いかけるのではなく逆側の角から角へと少しずつ相手の動ける範囲を削っていけば。
「うえ?うえっ!?」
じりじりと詰め寄るマッキーに快太は後ずさる。
するとすかさず翔太が言う。
「快太、そのエンドラインを越えればルール違反で罰ゲームの腕立て伏せだよ」
「ええーーっ!だってこんなの無理」
コートの半分、四分の一、少しずつ削られていく範囲。
マッキーは絶好の好機のなかでここまでで一番の緊張を感じていた。
「彼の良いところは常に考えてプレーができるということ。そのデメリットは長考すれば好機を逃すんだけど、それもある程度は経験で克服できる。
だから今日は……」
マッキーが選んだのは自分が始めに思い描いた距離より二歩だけ後ろからの踏み切り。
それは調度、快太がその距離になったら回避するために動きだそうと思っていた距離でもあった。
あまり早くに飛び出したら、快太の敏捷性からして身を翻され逃げられる危険性がある。
「……でもさ、飛び出さずに逃げられたらそれこそショックだよね」
一歩。
緊張が高まる。
二歩目の着地と共に動き出すことを決めた快太。
マッキーの二歩目の足が浮き上がる。
そして地面に向かって降下すると思っていた。
「……?」
しかしなかなか降りてこない。
そして快太は気付く。
ゆっくりと地面に向かうはずのその足が、急激に自分に向かってきていることに。
「くっ、あっ……」
思わず足が一歩下がる。
すぐに身体を振ろうとした快太だったが一歩退いたことでバランスの軸がぶれていて思うように動けない。
マッキーは一直線に快太に向かいながら両手を広げていた。
逃げ道はない。
「……良い判断だったね」
そして広げていた両手に快太の身体が触れた。
「よっし!!」
マッキーは思わずガッツポーズを作っていた。
「鬼ごっこ、一回戦終了」
「すげぇなマッキー」
「ほんと快太すばしっこすぎ、マジで猿じゃん」
コート外周を走っていた部員も集まる。
「誰が猿だ!!佐野くんひどいよ!!」
「あはは、ごめんごめん」
翔太は笑って快太に謝る。
快太はすぐに自分を捕まえたマッキーを見た。
「マッキーの大きい声初めて聞いた。ガッツポーズも初めてだな、やるじゃんマッキー」
にっと笑う快太。
皆がその周りで笑っていた。