もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「お前本気で・・・」

真平はどこかで信じてみたくなるその瞳をまだ受け入れることができないでいた。

「佐野くんが凄い人なのは実績から見ても、この前のプレーを見ても僕らも分かってるよ。でも、全国制覇した選手が教えてくれるからってたったの2週間で上手くなるとは思えないんだ」

マッキーはおとなしい性格をしているが、それは他の部員に比べて物事を冷静に見ることができるということに他ならない。

冷静な人、怒っている人、何も考えていない人、、ただ流される人。

そんな部員の様々な反応を翔太はどこかで楽しんでいるようにも思える。

「ん?僕は一度も2週間で君たちが上手くなるなんて言ってないよ?」

「は・・・?」

「だって佐野君さっき僕たちが幸大附に勝てるって」

部員が混乱するのも仕方がないことだった。

それはどこかでみんなが諦め、どこかで自分を過小に評価していたことであったからだ。

「その通り、勝てるよ。

僕の目から見て君たちの技術は別に低くはない。でも君たちは弱いんだ」

「言っている意味が分からねえ・・・」

真平の呟きに他の部員もうなずいた。

「これからの2週間は試合形式の練習をメインにしていこうと思う。技術は2週間では向上しない、でも戦術は2週間あれば蓄えられ、それをある程度身につけることができる。

改めて言う、新谷二中の技術は地区優勝校ともさほど変わらない。それでも勝てないのは試合の組み立てができていないからに過ぎない」

「・・・・」

部員たちが押し黙る。

その中で一人だけそわそわと動く部員がいた。

「つまりさ・・・

あと2週間頑張ってコウダイなんだっけ?に勝てば良いんだよね?」

緊張感がある場に急に吹いた風のように、快太の言葉が雰囲気を和ませた。

「・・・ぷっ」

「快太ほんとバカ」

「でも・・・」

快太を中心にして輪が広がるのが分かった。

そんな様子を少しだけ寂しそうに翔太は見ていた。

「佐野君の言葉がほんとかどうかなんて試合してみなきゃ分かんないし、なによりうちらが手を抜いてたら今までと何にも変わらないしな」

「だね、とりあえず2週間は佐野コーチの指示に従ってみるのも良いかもしんないな。なっ、それで良いよな真平?」

2年の頼れるまとめ役相川 匠が真平に言った。

真平は怒りっぽいが匠の言葉は素直に受け入れることができる。

「・・・分かったよ。2週間だけだからな!

ちゃんとコーチしろよな!」

その一言で部員の目線が集まった瞬間に翔太は無意識に噴き出してしまった。

「ぷっ・・・ははははは」

「え、佐野君?」

「あはははは・・・ごめんごめん。

ちゃんとコーチできるかは分からないけど君たちの勝利に向けて力を貸せるように頑張るよ」

まだ部員のほとんどは自覚していないが、ほんのわずかだがチームとしての意識が生まれた瞬間であった。


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