もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~

快太が席に着くと粕谷が仕切りなおして翔太の紹介を再開する。

「そんじゃ佐野くんから一言どうぞ」

そう促されて翔太は深く息を吸った。

これから一緒に過ごしていくことになる仲間達からの熱視線。

中学二年生とは思えない堂々とした調子で口を開く。

「佐野翔太です。父の転勤の都合で新谷二中にくることになりました。卒業まであと一年しかありませんが、みんなと仲良く過ごしたいと思っています。宜しくお願いします」

堂々として丁寧な翔太の態度に、クラスの皆から耳が痛くなるほどの拍手が送られた。

「佐野くんの席は吉川の隣だ。面倒見てやってくれよな」

「はーい」

吉川が元気良く返事をした。

翔太は吉川の隣の空いていた席に座る。

「私、吉川アヤ。何か困ったことがあったら遠慮せずに聞いてね」

「ありがとう。宜しく」

少しだけ赤いショートヘアを揺らして吉川が笑う。

すると、その向こうにある物が見えた。

「どうしたの?

あっ、テニスに興味あるんだ?ウチのクラスからはテニスコートよく見えるでしょ」

二面しかない小さなコート。

ネットが風に揺れ、土のコートには砂が舞う。

汚れてしまった白線。

それら全てが翔太にあの瞬間を思い出させるのだった。

「佐野くん?何か顔色悪いよ、大丈夫?」

「うん。大丈夫……」

心配そうにするアヤに笑顔を見せて、翔太は始まったばかりの朝のホームルームの話を聞くフリをした。

何も頭に入らなかった。

ただこのクラスの心地よさとあの日の悪夢とが胸のなかで渦巻いて意識がぼーっと遠退いていくのを感じた。


そんな様子を快太だけが、じっと見つめているのだった。




「カイタ後ろ向いてんじゃねぇ。廊下立たすぞ!!」

「す、すいません!!」





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