もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「おいかけっこ思い出して、ただだらだらとした試合運びはもうやめよう」
集中して取り組んだ1時間と何も考えずに過ごした1時間でこれほどまでの差があるとは、おそらく誰一人として思ってもみなかっただろう。
部員たちは肩で息をしながら中腰をしたり、地面に座り込んだり翔太の話を聞きながらも体力の回復に努めようとしていた。
「常に選択肢を広げて考える。
相手の苦手な場所、ストローク、コンビ間での連携が乱れる場所。少しずつで良いからそれを意識しながらプレーできるようにしていこう。君たちは強くなる」
翔太の言たことを本当の意味で理解できた者はまだいない。
でも翔太をどこかで同じ中学生、何故にコーチをされなければならないのか。そう疑問符を打ち出していた数人の部員の心に最後の言葉が突き刺さった。
「オレたちは強く・・・」
「真平?」
あれだけ不平を言っていた真平が確かに笑った。
そのことに隣にいた匠だけが気づいていた。
「こりゃ忙しくなりそうだな」
別に匠は占い師でもなければ予知能力があるわけでもない。
真平の表情から、ほんの少し先の未来は簡単に想像することができた。
真平も匠が笑っていたことに気づく。
「タク、何笑ってんだ?」
「え、俺今にやけてた?
でもま真平と一緒だよ」
「はあ?意味わかんね」
翔太はこの日ある決断を下すのだった。
「マッキー打とうぜ」
「ちょっとは休ませてよー」
亨にも匹敵しうる潜在能力を秘めた快太。
仲間想いで冷静な状況判断のできるマッキー。
熱くなってしまう欠点はあるが、力強いストロークの真平。
旧レギュラー陣が抜けて唯一のレギュラー生き残りの匠。
「あっちゃん疲れないの?」
「毎日15キロ走ってるから。てか勇気は体力無さ過ぎ」
技術不足はいなめないがそれをカバーできる持久力がある友澤 淳人。
総合力は高いが持久力に課題のある菅沼 勇気。
「それから・・・」
翔太はコートの隅で呆けたように空を見上げる高尾 歩夢。
「あと一人は、ダメもとで頼んでみるかな」
ダブルスという特性上、パートナーを決めなければならない。
中には部員の中で話し合って決めることもあるが、翔太は自ら相性の良いであろうパートナーを選定するつもりでいた。