もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
翔太がコーチにまった初日の練習が終了した。
夕暮れに染まるコートには吹奏楽部の演奏が響いている。
「おつかれー」
「おつかれさん」
帰路につく部員。
翔太だけは校舎に入っていく。
人の少なくなった校舎はどこか物悲しい。
「あ、ここの吹奏楽部って強かったんだな」
2階の職員室前を通り過ぎる時にこれまでのトロフィーが飾られているケースが設置されていた。
その中に「関東大会金賞」のたてを見つけた。
その場所にあのトロフィーは見当たらない。
翔太は踵を返して音楽室を目指していった。
吹奏楽の演奏がやむ。
それからほどなくして女生徒がしゃべりながら音楽室から出てきた。
数人の女性とは噂の転校生をまじまじと見て通り過ぎて行った。
「あれ、翔太?なにしてんの?」
ティンパニを移動しようとして出てきた幸助が翔太を見つけてほほ笑んだ。
二人はいつものコートを見渡せる部屋にティンパニを運ぶ。
「どうだ新生テニス部?」
「うん、なかなか面白くやってるよ。幸助は忙しくしてるの?」
遠まわしに聞いてみた。
「いや、コンクールはまだ先だしそんなにかな、なんで?」
「いや大したことじゃないんだけど、2週間後の幸大附との練習試合出てよ」
「・・・・・はい?」
幸助の表情は笑顔のままフリーズしている。
「練習は一回くらいでてくれたら良いからさ。宜しく」
「ちょちょちょちょちょ・・・
凄いやつだとは思っていたけど突拍子もないな翔太は。出ても良いけどさ、1回は練習付き合えよな翔太」
幸助は好青年だが腹黒い。
「・・・仕方ない、他を当たります」
「ちょ、ひどくないそれ!!」
「冗談だよ。ま一回くらい付き合いましょうかね。
無理を言ってるのはこっちだし」
「憧れのプレーヤーと練習できるなんて光栄だな」
それからしばらく話をしていると下校時刻を告げる放送が校舎内に流れたので二人は教室を後にした。
幸助の助っ人のおかげで選手は8人になり、最低限の人数は揃った。
翔太はどこかで期待感が生まれてきていることに気がついていた。