もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
中学に入る前の最後の大会でオレは一度だけそいつを見た。
小学校を卒業したらきっぱりとテニスから身を引いて音楽の道を歩んでいくと決めていた。
その最後の県大会で気持ちがから回ってしまってオレは二回戦で敗退した。
いつもならそこで帰り支度をして家に帰り、着替えてピアノ教室に行くのだが、その日は最後まで大会を観戦することにした。
三回戦で見たペアの試合にみいられて、数多くのペアが試合を行っていたにも関わらずオレはそのペアをずっと追いかけた。
結局そのペアは最後まで1ゲームたりとも奪われずに優勝台に登った。
「ナイスキープ幸助!」
「おう」
ハイタッチをすると軽快な音がコートに鳴り響いた。
オレは今その憧れのプレーヤーとダブルスを組んで、ポイントを奪ったら手のひらを重ねている。
願わくはこの時間がずっと続けば良いと思ったのだが、チープな下校の音楽と共にその夢のような時間は簡単に終わりを告げたのだった。