もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
午前の授業を終えて昼休みなる。
新谷二中は全国でも珍しい、給食を実施していない学校の一つだった。
生徒達は各自コンビニや家庭の弁当を持ってきている。
「ねぇ佐野くん一緒に食べよ?」
アヤがピンク色の可愛い袋に入った弁当を持ちながら翔太にそう言った。
すると
「あ、アヤだけずるい。私も佐野くんと一緒に食べる」
「えー、じゃあ私も」
アヤと仲の良い生徒達も続々と翔太の周りに群がる。
「お、なんか楽しそう。オレも混ぜろよ」
「嫌だよーだ。男子禁制!」
「男子禁制って佐野くんいるじゃねーかよ」
「だって佐野くんは格好良いもん」
だって。の意味も分からず、心に癒えない痛みを負った男子生徒がとぼとぼと自分の机に戻っていった。
翔太はその生徒に向かって申し訳なさそうにお辞儀をする。
すると、親指をグッと立てて、気にすんな。と合図が送られた。
「佐野くんは前は何処に住んでたの?」
「凄く礼儀正しいよねー。もしかして御曹司かなにか?」
「身長高いね。何かスポーツとかやってないの?」
色々な質問が飛んできて、翔太はそれに丁寧に答えていく。
和やかな昼食が続くと思われた時だった。
「うぉっしゃ食った食った。ほら行くぞマッキー!!」
昼食をよく噛みもせずにたいらげたかと思ったら、快太が急に大声を出して立ち上がった。
皆の視線も自ずと集まる。
「いや、だからカイタ食うの早いって。オレまだ残ってるし」
「……知るか!!オレが食い終わったら行く。そう決まっているだろうが!!」
((ええーーっ!!何てわがままな!!))
クラス中の誰もが心の中で叫ぶ中。
マッキーと呼ばれた坊主頭の男の子は、口では文句を言いながらも急いで残りのご飯を口に入れた。
その様子を見ていた翔太がアヤに耳打ちをする。
「あの2人はあんなに急いで何処に行こうとしてるの?」
「あー、あれね。テニスだよ。あいつら昼休みは毎日テニスの練習してるから」
アヤは「騒がしいでしょ」と笑って続けた。
「……そうなんだ」
2人は机に掛けていたラケットを手に、急ぎ足で教室を出ていく。