もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
「佐野くん、もう私達の名前覚えた?言ってみて」
「えっと……岡崎さん。今泉さん。和知さん。吉川さんに長島さんだよね」
「凄ーい、もう覚えてくれたんだね」
翔太は人の名前を覚えるのは苦手では無い方だった。
しかし、まさか昼休みの間だけしか時間がなかったのに、その中で確認テストをされるとは思いもしていなかったので驚いた。
それから質問攻めは続く。
しばらくするとさっきの2人が大慌てでコートに現れた。
二人の乱打(ネットを間にして打ち合うこと)は素人が見ても分かるほどに上手くない。
テニスラケットなんて持ったこともない女の子に笑われる始末だ。
「あはは。相変わらず下手だねカイタとノリユキは」
「本当。あれじゃいつまでやってもレギュラーになんかなれないって」
女生徒が笑う中。
翔太は真剣に2人を見つめていた。
そんな翔太を見てアヤが言う。
「やっぱり佐野くんテニスに興味在るんだね。すごい真剣に見てる」
翔太はうかつにもギクリとした表情をする。
そして慌てて言う。
「え、あ……そうだった?そんなことはないよ」
翔太は急に席を立った。
話が途切れ、女生徒の視線が翔太に集まる。
「佐野くん?どうしたの?」
「なんでもないよ、トイレ行ってくるだけ」
それだけ言い残して翔太は教室から出ていく。
「佐野くんなんか様子へんだったよね?」
「私たちが話しまくるからトイレのタイミングなかったんじゃない?」
「そうかもー、あはは」
気にかけない女生徒達の中でアヤだけが翔太の様子を気にかける。
「私なんか余計なこと言ったのかな?」
コートは嫌でもあのことを思い出させる。
見ないで済むのなら翔太はもうテニスコートなど見たくはなかった。