もう一度あの庭で~中学生によるソフトテニスコーチング物語~
ポンと肩を叩かれ、翔太は我に返った。
「え、あっ……田中くん?だったよね」
翔太の肩を叩いたのは、先ほどアヤに囲まれていた翔太の元からトボトボと帰っていった男子生徒だった。
「なんかボーっとしてたから疲れちゃったのかな?と思ってさ。大丈夫?」
田中が心配そうに顔を覗くので、翔太は微笑み返す。
「大丈夫、ありがとう」
そう言うのだが翔太の顔を見る田中の顔は曇ったままだった。
「何かな――?」
「……違ってたらゴメン。でもさ、大丈夫じゃない時は無理して笑わなくて良いんじゃないか?」
「……えっ?」
そう言われて翔太は驚いた。
翔太は別に無理をしているつもりなどなかったのだ。
でも、言われてみれば確かに、大丈夫でもなかったことに気付く。
「あ、ゴメン。やっぱり今のは気にしないで。じゃね」
走り去ろうとする田中に翔太は言う。
「田中くん、ありがとう」
田中は少し驚いた顔をして、さっきみたいな豪快なグッドサインを作って笑った。
翔太も笑いかける。
「うん、その笑顔の方が良いと思う。じゃ、また」
田中はそう言って一足先に教室へと入っていった。
少し気持ちの晴れた翔太は、それからしばらく窓越しに空を見上げながら心地よい風を感じていた。