嘘つき偽彼氏
男の人は目をぱちくりさせながら
硬直して動けないあたしのことを見ている。
そしてにっこりと微笑むと
「ごめん、ごめん。
ちょっと意地悪したかっただけ」
そう言ってあたしの頭をぽんっと撫でるように触れると今度はあたしの耳元で
「ほんとにごめんね?
許してね、お姉ちゃん」
そう呟くように囁かれた瞬間
弓道場に矢が的に当たる音が響き渡る。
その男の人はスタスタとどこかに消えてしまって
それでもあたしの固まった体は全く動いていくれくて
ただただ男の人………ううん
あたしの好きな人が去っていった方向をずっと見続けることしか出来なかった。
どきどきと高鳴る鼓動。
ただ気になってるだけだったのに
これは、この気持ちはすっかり恋に変わってた。
気になって………
あの人のことが頭から離れない。
あぁ、せめて名前だけでも聞いておけばよかった。