たったひとりの君にだけ
それよりも、ストレートにイエス、ノーを口にするより、こちらの方がよっぽど効果的だ。
「……私、海外に住む気はないわ」
今すぐその手を離してと、視線で強く訴えて、緩んだ隙に私は半ば強引に手を引っ込めた。
そして、そのままカバンに手を掛ける。
流されて生きていくことはきっと楽だ。
意志を貫くことは容易じゃないし、努力をし続けることは予想以上に茨の道で、いっそのこと全てを投げ捨てて何処か遠くへ行ってしまいたくもなるだろう。
けれど。
ふと立ち止まったとき、とてつもなく虚しくなるはずだ。
意志を捨てて、地に立つ自分。
そこに本当に自分はいるのかと。
目的もないまま、新しい生活を送ることは難しい。
きっと、長続きなんてしない。