たったひとりの君にだけ

そして、そこで出会ったのが樹だった。


私達の共通点と言えば、人数合わせ要員だったという点だけだろう。

本当にそれだけだった。


けれど、年齢的に違和感があったのは確かだ。

実加ちゃんを含めた女性3人は全員が20代前半、私も一応25歳で、男性参加者も全員が社会人1年目の23歳だった。

その中で、樹だけ29歳と離れていて、一人異常に落ち着いていたのを今も覚えている。

目の前の椅子に腰掛ける樹に、どうしてあなたはここにいるんですかと思わず問い掛けたくなったくらいだ。
後に尋ねたら、単純に仕事が早く終わり暇だったからという、何の面白味もない理由だったけれど。

その後は、ハイテンションで盛り上がる若者達についていけず、互いにぼそぼそとお酒を飲みながらそこそこの会話を交わしていた。

ゆえに、私は他の男性3名様とは全くと言っていいほど話していない。

はっきり言って、顔も名前も覚えていない。


そして、別れ際に連絡先を聞かれ、2回目の食事の後で交際を申し込まれ、付き合うこととなった。


承諾したのは断る理由がなかった、ただそれだけのことだ。
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