たったひとりの君にだけ

「評価ですか?」

「そう、感想という名の評価。ラーメンには口うるさいんでしょ?正直にどうぞ」


そして、私は味噌ラーメンを、高階君は味噌チャーシュー大盛をペロリと平らげて、今は夜道を並んでマンションへと帰るところだ。

すると、彼は僅かにう~んと唸った後で、口を開いた。


「正直、俺の行き着けには2歩及ばないってところでしょうか」

「わかる。何かが足りない、って感じだったよね」


即座に同意する。
残念ながら、舌が肥えているわけでもない、評論家でもない私には、その何かはよくわからないけれど。


「不味くはないんですよ、むしろ美味しいと思います。でも、人間、誰でも軽く『美味しい』って口にするじゃないですか。言うなればそのレベルですね」


具体的なダメ出しはない。
けれど、妙な説得力に頷く自分がいる。

本当に、その通りなのだ。


「でも、餃子は美味しかったな」

「それはわかります!皮がモチモチで肉汁たっぷりで……って、俺も充分有り触れた感想ですね」


精進します、と反省する彼に頑張れと口にして、私達は駅へと歩みを進める。

でも、よくよく考えてみると、別にそこまで的確な味の表現を求めているわけではなくて。
それとも、実はこっそり食の評論家でも目指しているのか。

それならば面白いからひっそり応援してみよう。
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