たったひとりの君にだけ
そして、この3連休の間も、その後も。
私のiPhoneには毎日のようにメールが届いていた。
意味不明な迷惑メール。
身勝手男からの身勝手メール。
703号室の住人からのTwitterメール。
野次馬状態の親友からのメールと、現在も一向に尽きることがない。
そんなのばっかりだ。
飽き飽きする。
だけど、それらのメールに紛れて、時々、高階君からは絵文字顔文字の一切ないメールが届いていた。
【神村さんから変なことされてませんか?】
変なことってなんだろう。
と思いつつも、恐らくは。
つけ回されてないかとか、ストーカー紛いのことをされてないかとかそういうことなんだと思った。
だけど、結論から言えば大袈裟である。
何故なら、よくよく考えてみれば、アイツには私の会社の前で名前を叫ぶなんて暴挙は到底無理だったのだ。
しない、のではなく、出来ない、なのだ。
あれでも樹は、フランス支社への栄転を控える身。
下手なことをして白紙にでもなったらお先真っ暗だ。
万が一、高階君の危惧通り、ストーカー紛いの行為を働いても警察沙汰になったら終わりだし、オフィスに常駐している警備員に目をつけられたら二度と近付くことは出来ないだろう。
寺脇さんはきっと私の味方をしてくれる。
樹の特徴を伝えて、目を光らせてもらうことくらい容易いのだ。(使えるものは使うべきである)
チャンスを棒に振る真似はしない。
疑われてしまうような行為すらすべきではないと、あの神村樹ならわかっているはずだ。
つまりはあの日、私は騙されたと言っても過言ではない。