たったひとりの君にだけ
「お先します、お疲れ様でした~」
次々にオフィスに響く明るい声。
いつもよりワンオクターブ高く感じるのは、今日が金曜日だからだろう。
適度なハプニングに見舞われながらも、今週もよく頑張りました。
ご褒美のアルコールは、本日は何をチョイスしましょうか。
「……私も、そろそろ行くか」
人知れずボソッと独り言を呟き、デスクの整理整頓をする。
かくいう私もこの後、予定があるわけで。
上司がまだ残っているのが見えているけれど、久々の定時上がりだ、今日くらいは許してほしい。
約束の時間に遅れないように、朝からノンストップのフルスピードで片付けたのだから。
店はまだ決まっていないものの、約1ヶ月振りに悪友・瑠奈との会食が待っている。
5日程前の電話ではそれらしきことは何も喋っていなかったけれど、華の金曜日に飲もうのメールが来ることが、一体何を意味するのか。
長年の付き合いになる私には全てお見通しだ。