たったひとりの君にだけ
この一年、後輩の頑張りが著しく次々と結果を残してくれたおかげで、自動的に私も多忙を極めた。
割りと営業成績が良かった私は、入社4年目でこれからも営業メインでいくか新入社員相手に奮闘するか、岐路に立ったときに先輩には『もったいない!』と前者を薦められたけれど。
結局、私自身も先輩に散々迷惑を掛けてその都度励まされ助けられて来たことを思い出し、現在は生命保険会社でトレーナーとして主に後輩の指導に当たっている。
カレンダー通りの休日と他社より比較的長い夏休み。
そして有給休暇の取得のしやすさが自慢の、助け合い精神に溢れたオフィスは、こんな私でも居心地がいいものだ。
おかげで当分辞めるつもりはないし、辞めたところでこの東京で一人で暮らしていけるはずもない。
高校の友人曰く、転職には気力も体力も想像以上に必要なのだ。
入社1年目の頃は予想以上のシビアな世界に圧倒されて、私もそれを何度も考えたけれど、今は脳裏を1ミリも掠めることはない。
本音ではもう少し給与がアップすれば、とは思うけれど、ぶち切れるほど低賃金というわけでもなく、女の一人暮らしには充分足りている。
そして、あの部屋も、家賃は若干高いけれど、新築3年目、セキュリティーは万全、日当たり良好、収納場所も多く、引越しを考えていた際にネットで発見して、見学直後、即入居を決めた。
大学4年間。
そして、社会人としての3年間。
ボロアパートでコツコツ地道に貯金を頑張った甲斐があったというものだ。
だから私はあの部屋で過ごす時間がとても好きだし、何処にも出掛けずに土日をダラダラ過ごすのも至福のひとときだと確信している。
ただ今は、師走の繁忙さが落ち着いてほっと一息、といったところで、年末の計画なんて立てられそうもない。
とは言いつつも、何処かに出掛けるつもりは全くないし、精々近所のスーパーへの買出しやTSUTAYAにDVDを大量に借りに行く程度だろう。
そして、エアコンの効いた暖かな部屋で、ラフな格好に身を包んでレンタルしたDVDを消化する日々。
アルコールなら、長い長い休日の間にいくらでもあの部屋で楽しめる。
体調がよくなったら、とっておきのワインでも開ければいい。
懸賞で当選した何処ぞのメーカーかもわからないグラスをお供させて。