たったひとりの君にだけ
「で?」
ジョッキから口を離して、恒例行事の如く泡髭を装着した親友が問う。
ハタチをゆうに超えた女がそれってどうなのと毎度のことながら思うけれど、やっぱりここは敢えて口を噤むことにする。
「え?」
まるで会話が噛み合わない。
自分の所為とは重々承知していても、たった一音でのやり取りには限界がある。
「だーかーらー!クリスマスデートの詳細を事細かに教えてくれる為に私を呼び出したんじゃないわけっ!?」
そんな私に苛立ったのか、ジョッキを豪快に叩き付けた親友は軽く叫ぶ。
隣のテーブルの若造(恐らく大学生)が見事にビクッと体を引いていた。
残念ながら今日は個室ではない。
という事実は、瑠奈には1ミリたりとも関係ないらしい。
普段よりも格段にハイペースなのは言うまでもない。
何故なら明日から待望の年末年始の長期休みで、羽目を外したって翌日の仕事に影響を及ぼす可能性は皆無。
誰にも文句は言われない。
私は持ち前の寛大な心で、多少は大目に見ることにした。
(但し、飲み過ぎて迷惑を掛けられた場合は除く)