たったひとりの君にだけ
顔を向けなくたってわかる。
道行く人の視線が突き刺さっていること。
注目を浴びるのは昔から苦手だ。
しかも悪目立ち。
もう、これ以上我慢ならない。
私はその憎き顔を睨みつけてやった。
「なんだよ」
「それ以上顔近付けてみなさいよ。頭突きしてやるから」
すると、樹はふっと息を吐いて、僅かに顔を離した。
けれど、未だ口角を厭らしく上げたまま。
「……なによ」
思わず先に口を開く。
「相変わらずカッコいいな、お前は」
そして、意味不明な切り返しに更に眉間に皺を寄せると、樹は続けてこう言った。
「でも、今しとかないと後悔する気がすんだよな」
「は?」
「だから、やっぱりキス、しとく」
やっぱりバカだ。