たったひとりの君にだけ
「するよ」
「蹴るよ」
一瞬、樹の目が見開いた。
そして、手の力が弱まる。
私はその隙を逃さない。
「思い切り、急所蹴ってやるから」
すると、樹はふっと笑って、汚らしい手を離した。
そして、肘から先を宙に上げて、わかりやすく降参のポーズを示す。
「それは困るな。使い物にならなくなったら、芽久美、困るだろ?」
「私は1ミリも困らない。それよりフランスの方々がお困りになるんじゃないですか」
「あぁ、それもそうか」
もう帰れよ。