たったひとりの君にだけ
すると、奴は私のポケットに強引に手を入れた。
「ちょ……っ、なに」
「いいから、持って帰れ」
絶対に譲らないんだとわかった。
その目を見れば明らかで、私と同レベルに頑固だと思い知る。
別れを受け入れてくれたのは、やっぱり私が逃げるが勝ち状態だっただけで。
正確には“受け入れた”とは言えないんだろうけど。
とりあえず。
『ここは引く。だから受け取れ』
そういうことなんだろう。
そして、ここで私が大人にならなければ、きっとまた、くだらない押し問答が始まる。
だから、そっぽを向いて抵抗しなかった。