たったひとりの君にだけ
「じゃ、俺戻るわ。瑠奈ちゃんに申し訳ないし」
「そうだよ、そうして、早く行ってよ、じゃあね」
ホント、早く行きなさいよ。
私の親友に失礼だよ。(誘ったの自分でしょ)
「……芽久美」
しつこい。
もう名前を呼ばないでと。
不快感満載で心の中で悪態をつくと。
「好きだよ」
なんの前触れもなく。
背中に突き刺さった言葉に懲りずに引き止められた。
私はこれほどに学習能力がないのか。
「好きだって、どうしたらわかってくれる?」
しかも、異常に落ち着いた声に。
不覚にも。
鼓動が重く響いてしまうから。
「芽久美」
「わからない。わかりたくもない」
情けない。
そう思いつつ、冷たい声で突き放す。
「意地っ張り」
「意地なんか張ってない」
誰がそんなもの張るか。
思わず振り返る。
奴は、今度は自分のポケットに手を突っ込み立っていた。