たったひとりの君にだけ

「心待ちにしてるだろうね、近藤家の皆様」


アップルジュースで喉を潤そうとすると、あまりにも薄くて眉間に皺が寄った。
だけど、安さが売りのチェーン店なら、これも仕方がないのかなと潔く諦めた。


「お盆は帰らなかったからね、うるさくて。ついでにお土産沢山買って来いだって。厚かましいでしょ?」

「お土産くらい買って帰りなよ、名古屋か大阪で」

「まぁ、考えとくわ」


だけど、なんだかんだ言ってちゃんと買って帰るんだろうなと思う。

ただ、大家族という点がネックなのかもしれないけれど。

瑠奈の家族には、大学2年の夏休みに広島旅行に行った際にお世話になった。
全員が全員明るく陽気で、この環境で瑠奈が育ったんだと思うと納得だった。

親切以外の何物でもない彼女の家族を、瑠奈は『外面がいいだけだよ』と言っていたけれど、照れ臭そうなその様子から、少なからず自慢に思っているんだろうなと感じた。

そんな家族を悲しませるようなことはしちゃいけない。


「ゆっくりして来なさいよ」

「芽久美は引篭もりでゆっくりしなさいよ」


嫌味にも動じず、私はハイハイと言葉を返す。

誰もが実家に帰省する時期でも、私のホームは相変わらずの707号室だ。



年末年始。

大都会・東京の人口は一時的に減り、通常よりも確実に落ち着きを増す。
ホームがある人はそこへと向かい、一家団欒で年越し蕎麦なんてものを食すのだろう。

私はそんなものは食べたことがない。
むしろ年越しラーメンがいい。
ちなみにスープは味噌でお願いしたい。(野菜はたっぷりめがいい)

誰に何を言われたって構わない。


アウトサイダーは未だ健在である。




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