たったひとりの君にだけ
「……芽久美」
「なによ。まだなんかあるの」
「面白いよ、お前。面白くて、オカシイ」
失礼発言極まりない。
今度は何を言い出すんだと、幾度目の皺を眉間に寄せていると、樹はこう言い放つ。
「でも、お前。オカシイけど、自分が思ってるよりイイ女だから」
だから何が言いたいのだろう。
必殺技みたいに、100%のお世辞をぶつけられたところで私は1ミリも揺らがないのに。
何を知ってるっていうの。
何も知りはしないくせに。
「ま、俺もイイ男だけど」
結局、言いたいことはそんなことか。
呆れて溜息も出ないわ。(っていうか売り切れたわ)
「あー、ハイハイ。そうですね。おめでとうございます。じゃあ帰るから。ついて来ないでよ」
「あぁ。またな」
また、があると思っているこの男の無駄に整っている顔面を、思い切り殴ってやりたい衝動に駆られながらその場を後にした。
当然、追って来る気配はない。
素直に帰してくれたことに感謝しても。
その身なりじゃ不可能なことは明らかだった。