たったひとりの君にだけ
電車を降りて、スーパーで無事に食料を調達して、重い荷物を手にエレベーターに乗った。
そして、自分の部屋に帰る途中、703号室の前を通り過ぎようとしたところでふと足が止まる。
『好きだって、どうしたらわかってくれる?』
なにふざけたことを言ってるんだろう。
わかるわけない。
わかりたくもない。
わかる必要がない。
もう、過去の出来事だ。
それに。
結局は。
キスされそうになったとき、私は少しも取り乱さなかった。
それが、答えだ。
樹なんてどうだっていい。
それなのに。
リフレインが止まらない。
『お前には似合わないよ』
金曜の夜だ。
いるかどうかなんてわからない。
だけど、横目で睨んで通り過ぎた。
そうしてしまう自分が一番。
酷く、滑稽だった。