たったひとりの君にだけ
「ホント、いい奴なんです。俺が録画し忘れたテレビも気を利かせて録ってくれるし、行列の店にも一緒に並んでくれるし」
それっていいように使われてるだけじゃないの?
「それに、充、講義を一度も休んだことがないくらい真面目で、周りの人望も厚くて、試験期間は引っ張りだこでした」
それは容易に想像出来る。
「充のノートのコピーが出回ってました。俺も助かりましたよ」
私が大学生の頃は、一部何円で試験期間限定で商売やってた奴がいたな。
単位が取れなくて留年するよりはいいって心理を利用されたんだろうけど。
だけど、高階君は一円たりとも取らなかったんだろうな。
「あと、俺のバイト先にもよく顔出して売り上げにも貢献してくれたし、差し入れも持って来てくれたし、旅行に行けば必ずお土産。帰省しても毎回違う青森土産を買って来てくれました」
私にも、気になるりんごを買って来てくれた。
そして、甲斐甲斐しく、看病してくれた。
おかげで、新年一発目、休まず出社出来た。
だから、メガネ君の言いたいことはわかる。
「ホント、他にもいろいろ」
「まだあるんですか」
「はい。本当に、迷惑も感謝も、数え切れないくらい」
一つ屋根の下、4年も一緒に暮らしていたら、喜びも悲しみも分かち合ったんだろうなと思う。
そう言った彼の顔は、明るさの中に暗さも混じっているような気がした。
けれど。
「わかりますよ。少なからず私も彼には迷惑掛けましたし」
「じゃあ、」
「でも、それとこれとは話は別」
それでも私は思い切り切り捨てた。