たったひとりの君にだけ

案の定、メガネ君は黙った。


「言いたいことはわかるけど、素直にうん、なんて言えると思いますか」


答えなんてわかり切っている質問。

威圧的な態度に、メガネ君は未だ言葉を失ったまま。
その様子に、私は少しだけ口調を和らげる。


「ごめんなさい、強く言って。……でも」

「でも?」


言いかけて止まった。

何やってるんだろう。
柔らかな雰囲気の所為で流されそうになるなんて。

出会って2回目。

本音なんてまだ早い。


「……ごめんなさい、今のナシ。とにかく、高階君には私もお世話になってるけど、久瀬さんのお願いは受け入れられません」


断言する私に、メガネ君はあからさまに悲しそうな顔をした。

だけど、気にも留めず、私は畳み掛ける。


「残念だけど、久瀬さんに言われたから、『はい、付き合います』って言うほど私はお人好しじゃないし、そもそも、そんなことしてあの高階君が喜ぶとは思えない」


むしろ、そういうのを嫌う人種に思える。
あの真っ直ぐ人間は。


「でも、勘違いしないで下さい」

「え?」

「私、高階君を嫌いなわけじゃないですから」


本当に、今日で会ってまだ2回目なのに。

これでも。
ここまで言える自分が珍しい。

認めたくないけど。
やっぱり雰囲気が似ている所為なのか。
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