たったひとりの君にだけ
「今日は定休日なんですか?」
これ以上、この類の話をするのは都合が悪い気がして、私は無理矢理話題を変えた。
「はい、そうなんですよ。で、今からそこのケーキ屋に行くんです」
そう言って、メガネ君は私の背後を指差した。
そこにあるのは、会社でも評判の人気パティスリー。
私も何度か食べたことがある。
確か、パリで修行した店長がすこぶるイケメンだって、真智子ちゃんが騒いでたっけ。
だけど、それよりも気になったのはこっちの方。
もしかして親友も甘党なのか。
何故だろう。
ひとつの部屋で二人仲良くケーキをつつく姿が見える。
「……あそこのケーキ、美味しいですもんね」
「そうなんですよ、佑李が好きで。実は今日、結婚記念日なんです。だから、大好物のフルーツタルトでお祝いしようと思って」
満面の笑みを向けるメガネ君は誰がどう見たって幸せそのもの。
少なからず、羨ましいという感情があるのは否めない。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。高いけど、佑李にも充同様いろいろ迷惑掛けてるから、たまの贅沢くらいいいですよね」
確かにあそこのケーキは高い。
バカみたいな値段がする。
だけど、何を食べても期待を裏切らない。
記念日にはうってつけだろう。
「そうですね。奥様、喜ばれると思います」
「だといいんですけど。あ、ちなみに充はあそこのプリンタルトが好きですよ。プリンとタルトが好きだから、合体したから最強だ、って言ってました」
小学生か。