たったひとりの君にだけ

だけど、そういえばコンビニで偶然会ったときも、山盛りのスイーツの中にビッグサイズのプリンがあったような。

カロリーを考えるだけで恐ろしい。


「……まぁ、プリンタルトも美味しいよね」

「はい。あ、もうすぐバレンタインですよね」


どういう思考をしているんだろう。

いきなり話題がチェンジしたかと思えば、どっからどう見たってどうでもいい話で。
しかも、そのワードを耳にすれば、その先が簡単に読めるからしかめっ面は条件反射。

何故なら、無意味なニコニコ顔が復活している。


「そうですね」

「どうするんですか?」


とてつもなく余計なお世話だと思う。


「知りません。奥様から貰えるといいですね、それでは失礼します」


だから、逃げるが勝ちだ。


「あ、お急ぎでしたか。引き止めてすみません」

「いえ、お互い様ですので。じゃ、素敵な結婚記念日をお過ごし下さい」

「ありがとうございます」


その言葉を耳に、私は横を通り過ぎた。

それなのに。



「椎名さん!」



若干の至近距離。
ビクッとして、立ち止まる。

まだ何かありますか、と思いながら渋々振り返ると、メガネ君は一息ついて、こう言った。


「充のことは抜きにしても、本当に今度また、店に来て下さい」

「え?」

「佑李も、改めて会ってみたいって言ってたし」


変わり者夫婦なのかもしれない。
自分達の店であんな失態を犯した人間に、また会いたいだなんて。

絶対に変わってる。


「……まぁ、気が向いたら」

「よかった。ありがとうございます。あ、あと、やっぱり最後にもう一度言わせて下さい」


何を言われるのだろうと、僅かに身構えているとメガネ君は微笑んだ。




「充、いい奴ですから。本当に、アイツはいい奴だから。それだけは覚えておいて下さい」




その顔があまりにも自信に満ち溢れていて。
それでいて、確固たる友情が垣間見えて。

騙されているなんて冗談でも思わない。

だからこそ。


私は視線を外してほんの僅か、誰も気付かないくらいに首を縦に動かしてその場を立ち去った。


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