たったひとりの君にだけ


飽きるくらい、しつこいほど。
思わず耳を塞ぎたくなるほどの。

私の隣の隣の隣の隣に住む男の情報は、結局。

連呼されたこの一言に尽きてしまうと知る。





『充は、いい奴ですから』





現代文の授業で習った。

大事なことは何度も繰り返し述べられていると。
だからこそ、何度も読み手に訴えているのだと。



だけど、どうして冗談でも悪口のひとつも言わないの?

人間誰だって欠陥くらい持ち合わせているでしょう?

どうしてそれを言わないの?

笑い話としてネタのひとつやふたつ、場を盛り上げる為に提供してもいいんじゃないの?



だけど、結局は。

要するに、つまりは。

それをかき消してしまうほど。
むしろそんなもの見つからないと。

親友として、自慢話ばっかりなんだって。




何故なら奴は。
“いい奴”、だから。





唇を噛み締める。

そんなことわかってる。
言われなくてもわかってる。

こんな私でも、わかっている。




自分勝手な私とは。


遠く遠く、かけ離れていることを。




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