たったひとりの君にだけ
残念ながら瑠奈の忠告は無意味と化した。
案の定、絶賛体調不良中である。
社会人のくせに甘く見た結果がこれとか、あぁ情けない。
瑠奈との忘年会の帰りに、風邪薬のひとつやふたつ買って帰ればよかったんだ。
これが“後悔先に立たず”ってやつ?
常備しているのは対・生理痛の薬くらいで。
社会人になってからは、それほど体調を崩さず過ごして来た。(未だ嘗て有休を病欠に使用したことはない)
それなのに。
どうしてこんなことになったのだろう。
自慢じゃないけど『椎名さんって綺麗な声してますよね』とよく営業先の男性から褒められるのに、今やその面影はゼロの濁声状態。
年末に瑠奈と飲んだ、あの居酒屋の中年店員を思い出す。
あそこまで酷くないと思いたいけれど、今はなんだか自信がない。
ゴミ箱には使い終わったティッシュばかりが入っているし(何枚かは床に散らかっているのは言うまでもない)、ミネラルウォーターも底を尽きそうだ。
胃は確実に空っぽだけど、キッチンに立って何かを作る気には当然なれない。
これはマズイ。
確実にマズイ。
いつまでもベッドで横になっているわけにもいかないらしい。
生命の危機だ。