たったひとりの君にだけ
「……でも、さっきも言ったけど、料理なんて練習すれば誰にだってそこそこ出来るようになるから」
「こんな俺でも?」
「人より時間は掛かると思うけど」
それはもう、かなりの時間を要すると思うけど。
(人の何倍掛かるか想像してみたけど果てしない)
私はタオルを取り出して、少し距離を置いて彼の右隣に立ち、綺麗になったお皿を受け取る準備をする。
今更だけど、並んで立つことに違和感を覚える。
「芽久美さんは、小さい頃からよく厨房に立ってたんですか?」
厨房って。
私は別に飲食店勤務じゃない。
「……まあね。料理は出来て困ることはない……それより、チキンライス、まだあるから持って帰る?」
「えっ、いいんですか!?」
「いいよ。明日のお昼にでも食べれば」
「ありがとうございます!」
こんなに喜んでもらえるのなら、バカみたいに作ってよかったと。
本当に本当に、心から思ってしまうから不思議だ。