たったひとりの君にだけ

「……でも、さっきも言ったけど、料理なんて練習すれば誰にだってそこそこ出来るようになるから」

「こんな俺でも?」

「人より時間は掛かると思うけど」


それはもう、かなりの時間を要すると思うけど。
(人の何倍掛かるか想像してみたけど果てしない)

私はタオルを取り出して、少し距離を置いて彼の右隣に立ち、綺麗になったお皿を受け取る準備をする。

今更だけど、並んで立つことに違和感を覚える。


「芽久美さんは、小さい頃からよく厨房に立ってたんですか?」


厨房って。

私は別に飲食店勤務じゃない。


「……まあね。料理は出来て困ることはない……それより、チキンライス、まだあるから持って帰る?」

「えっ、いいんですか!?」

「いいよ。明日のお昼にでも食べれば」

「ありがとうございます!」


こんなに喜んでもらえるのなら、バカみたいに作ってよかったと。
本当に本当に、心から思ってしまうから不思議だ。
< 272 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop