たったひとりの君にだけ

同時に、心臓が鈍く重い音を立てた。



「なんで、遠いって感じるんですか?」



再度、同じ問い掛けを耳にして、横目で会話していたけれど私は無意識に視線を真逆へと移動させていた。


改めて突きつけられた現実は。
わかり切っているのだからこんな反応は無意味でしかないのに。



何故遠いと思うのか。

どうして、遠いのか。



それはただ、日に日に思い知るだけ。


そう。

見れば見るほどに。
話せば話すほどに。
聞けば聞くほどに。

そして、知れば知るほどに。


距離を感じる。


“いい奴”、に比べて。

自分は、“いい奴”、だなんて嘘でも言えないから。


果てしなく遠い。


やはり無意味だ。


そんな君に、手を伸ばしても。

届かないと思い知るだけなのだから。
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