たったひとりの君にだけ

たとえ、好意を抱いてくれているとわかっていても。



「……勘、かな」



思い切り言葉を濁す。

イチから話すのが面倒というよりも、既に身包みを剥がされることに耐えられなくなっている気がした。
少しは開放的になったとはいえ、これ以上は難しいと。

私も大概、気が短い。

そして、呆れたのか実加ちゃんは再度、大きな吐息を漏らす。

失礼だな、と若干思ったけれど、当然と言えば当然で。
第一、それは本当に一瞬の出来事で。

即座に掻き消されたのは。
懲りずにまた、心臓が鈍く重い音を立てたからであって。




「じゃあ、どうして遠いって決めちゃうんですか?」




中枢を、深くえぐられた気分だった。
< 293 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop