たったひとりの君にだけ
「あれから私も大人になって、一回一回の恋愛が学生の頃に比べて貴重っていうか、重いなって。先のことを考えちゃうから無駄に結婚って文字がちらついちゃうし、そのくせ別れるとやたら立ち直りに時間が掛かるし、それなのに新しい恋を見つけると傷付くのを恐れちゃうし」
「……うん、わかるよ」
「だから、余計思うんです。好きだって気付いたら、真剣に向き合わなきゃいけないなって」
私が久々の相槌を打った後の、実加ちゃんの言葉に少なからず胸がチクリと痛んだ。
そして、下を向くだけの彼女はもういない。
力強く、こう告げた。
「でも、ぶっちゃけ、諦めたっていいんです」
その発言に、『え?』という声が出なかったのは。
単純に、瞬時に聞き返せなかっただけだと思いたい。
「傷付くのが怖いなら、やめたっていいんです。そんなの自分の勝手だし」
「……そりゃそうだけど」
「はい。……でも」
失礼なほどに、今度は投げやりな返事をしたのに、彼女は機嫌を損ねる素振りも見せず。
顔を上げて、私を真っ直ぐに見つめた。
「……でも、諦めるって決めて、なんか違うなって思ったら。やっぱり、どうしようもないくらい好きだって思ったら、これから先、一緒にいたいって思ったら。ちょっと頑張ってみると思います。……たとえ自分と遠いなって思う人でも」
迷いない瞳。
偽りのない笑み。
そして。
“どうしようもないくらい好きなら”
“これから先、一緒にいたいと思うなら”
響くものがあった。
何故なら、その言葉に、可愛い後輩にすら卑屈状態だった私の頭が。
ぱっと、晴れていくような気がしたから。