たったひとりの君にだけ
「あのときのメグ先輩、カッコよかったな。思えばあの頃から憧れなのかも」
上目遣いで覗き込まれ、恥ずかしさのあまり思わず視線を逸らす。
「……そんなこと言っても何も出ないよ」
「本当に思ってるんですよ?疑わないで下さいって」
こんな女のどこにどう憧れるんだろうと、根っからの疑問を抱きながらも。
純粋な瞳で見つめられれば、こんな私でも悪い気はしなくてこれ以上言い返す気が失せる。
すると、実加ちゃんは私の正面に移動して両手を握って来た。
「え、な、なに」
突然の行動に、反射的に身構える。
けれど、彼女は落ち着きを前面に出して、柔らかな声を発した。
「メグ先輩」
「は、はい」
「状況は違うかもしれないけど、メグ先輩、自分がどうするべきかわかってるじゃないですか」
その言葉に、しっかりと心臓が反応してしまうのは。
「言いたいこと言わないで後悔しないで下さい。こんな悩むくらい好きなんだから、一歩踏み出して下さい。メグ先輩はこんなに魅力的なんですから」
その笑顔に、一瞬でも胸が苦しくなってしまうのは。
握られた手に込められた確かな力。
必死で背中を押してくれる言葉達と共に、胸のつかえが取れた気がした。
そもそも、すべきことはひとつなのに。
お前は何をしているんだと。
心の奥底に眠る、もう一人の自分にそう言われた気がした。