たったひとりの君にだけ
26歳の冬。
あと1ヶ月でまたひとつ年を重ねる。
初歩的なことに今更ながら気付いた情けなさがあるものの、クリアになった頭に免じて許してほしい。
なんて、そんなことを思っていると、ポケットに入れていたiPhoneが震えた。
画面を見ると、“高階充”。
それも、メールではなく電話ゆえ、珍しいと思いつつ緊張感が勝る。
ついさっきまで本人の話をしていただけに私の心臓は正直だ。
一息ついて、心を落ち着けて、私は通話ボタンを押した。
「……はい」
『もしもし、芽久美さん?』
「はい、椎名ですが」
『おっ、椎名ですが、ってカッコいいですね!』
「……バカにしてる?切るよ」
『し、してませんっ!切らないで下さい!』
本気で焦る高階君に、冗談だよと返すとホッと胸を撫で下ろしたようだった。
『改めて、お疲れ様です。今、大丈夫ですか?』
「うん、大丈夫」
『よかった。この前は、本当にありがとうございました。美味しかったです』
「こちらこそおすそ分けありがとう。それより、今日はTwitterじゃないんだね」
『え?』
想定の範囲内の反応。
主導権はこちらにアリ。
「ほら、いつも“とんこつラーメンなう”とか送って来るじゃない」
『そ、それって別にTwitterじゃ……あ、俺Twitterやってるからアカウント教えましょうか?』
「……私がTwitterやってると思う?」
大丈夫。
私、普段通りに悪態をつけている。
『……やってない気がします』
「でしょ?」
絶対に、何も悟られちゃいない。