たったひとりの君にだけ
「で、何の用?わざわざ電話だなんて」
『あ、はい。あの、急なんですけど、今晩、時間ありますか?』
「え?」
『ラーメン食べに行きませんか?この前のお礼も兼ねて』
彼の声はいつものように明るい。
今はそれが、落ち着くと自信を持って言える。
けれど、人生ギブアンドテイクだと言っているのに。
彼はまた、私に何かをしてくれようとしている。
『美味しそうな店見つけたんでどうですか?』
きっと、毎日毎日、頭の中はラーメン祭りなんだと思う。
そりゃ、私だってラーメンは大好物だけど。
『あ、まだ仕事終わってないなら終わってからでいいんですけど』
「仕事は終わったんだけど」
『じゃあ、』
「残念。3分前に予定が入っちゃったんだよね」
『え、そうなんですか?』
「うん。せっかくのお誘いだけど、今日は遠慮しとく」
『そうですか~』
「ごめんね」
あからさまなガッカリした声で、電話越しでも容易に表情まで想像出来る。
本当に、表現豊かというより、素直なんだなと心から思う。