たったひとりの君にだけ
『じゃあ、また今度ってことで』
「……うん、そうだね。また今度」
“また今度”
そう言われ、そう言えることが。
今は、素直に嬉しい。
けれど、余韻に浸る暇もなく、電話を通して高階君を呼ぶ声がした。
「……お呼び出しくらってない?」
『は、はい。なんか、ものすご~く嫌な予感……』
「あれはかなり切羽詰まってるよ」
『ああ~、今日はもう帰るつもりだったんだけどな~…』
と力なく口にした瞬間に、『高階~!トラブル発生だ!手伝え!』とハッキリ聞こえた。
『は、はい!今行きます!』
絶対に上司に言ったはずだけど、電話を伝ってこちらにまで丸聞こえで。
大変だな、と人事のように思ってしまった。
「じゃ、残業頑張って」
『……はい。チクショー』
零れた本音に笑みを浮かべながら電話を切った。