たったひとりの君にだけ
「わざわざお出迎えなんて恐れ入ります。お久し振りです、これお土産です!鮮度が命の青森名物・気になるりんご!」
結局、思うままにドアを勝手に全開に開いているわけで、しかも無駄に満面の笑みを向けて来るわけで。
だけど、その声だけは、近いのに遠い。
顔を上げ続けることに疲れて、俯く私に次々と降るノイズ。
それでも、耳障りという単語は不適切のように思えた。
「とか言いつつ、実は賞味期限は2月中旬……って、芽久美さん?」
あれ、なんだろ。
力が入らない、気がする。
「芽久美さん?」
「……はいはい、どうも、ありがと……」
「ちょ、芽久美さんってば、様子おかしくないですか?」
「……そんなこと、ないって……じゃあ、私、出掛けるから……」
そう言って、外へと一歩踏み出そうとした。
そのときだった。
ふらっと体が傾いて、一瞬で目の前が暗くなった。