たったひとりの君にだけ
思わず感謝しそうになっていると、今度はその湯川さんが、湯川さんらしい笑みを浮かべた。
「なんですか?」
身の危険を察知した私は先に牽制した。
けれど、案の定、それは無意味と化してしまう。
「ってかさ、芽久美。今日、なんかあんの?」
「え?」
「だって、口紅。真っ赤だろ?超真っ赤。何かあるとしか思えねえんだけど」
人差し指で示された先。
私は思わず上唇と下唇を強く合わせた。
「なぁ、なんかあんの?」
「なんですか、その厭らしい目」
「いいから早く答えろよ、なんかあるんだろ?」
好奇心に満ちた目を向けられる。
ご期待に沿える答えが紡ぎ出せるとは到底思えない。
けれど、何を思ったか私は、一息ついて正直に答えてみる。
「……過去の自分を戒める為、かな」
傷付くのを恐れる前に、傷付けた人と向き合いたい。
「お前、何カッコいいこと言ってんだ?似合わん」
一大決心を無碍にするような言い草に、思わずむっとしそうになるのを堪えて、私は『うるさいですよ』と一蹴した。
私は今から戦場へと行く。
少しは優しく背中を押してほしいものだ。(といっても、詳しい事情を話していない以上無理があるけど)