たったひとりの君にだけ

待ち合わせ場所はここから電車で2駅。
全てあちらに任せてある。

1ヶ月前は私の意思なんて無視だったけれど、今回は同意の上だ。
得意な方に任せておけばいい。

入り口付近に立ち、流れる景色を見ながら振り返る。



思い返せば私は、俗に言ういい彼女ではなかった。

何かを求められて拒むことはほとんどなかったけれど、やはり心まで許すことはなかった。



もしかしたら。
奴はそれを気付いていたのかもしれない。


そう思うと、9ヶ月間、どんな思いで私と付き合っていたのだろう。

そして、どんな思いで別れを耳にして、どんな思いで引き止めたのだろう。


だけど、かくいう奴も割りと勝手な性格で、今ほどでないけれど交際していた頃、そこそこ俺様だったと思う。

例えば夜中の3時に電話を掛けて来て、『明日休みになった。会えるか?』と言って来た。
私が出るまでしつこく電話を鳴らし続けたほどだ。

また、互いの仕事の関係で夜遅くに合流することが多く、食事を済ませた後で帰ろうとする私を、『まだ一緒にいたい』と半ば強引に自宅マンションへと引き連れたこともある。

翌日が仕事の日には、着替えも何もない私は始発電車が動き始めると同時に樹と共に行動を開始して、毎回わざわざ自宅まで帰っていた。
『ある程度お前の物も置けよ』と言われたけれど、私は未だ嘗て、後々面倒になるだろうと考えて一度もそうしようとは思わなかった。

身勝手なところは私と似ているのかもしれない。



けれどきっと、私の最後の身勝手には到底及ばない。



それでもそんな私に会いに来て、フランスに来いと懇願した。



私はどうして、高階充じゃないとダメなんだろう。

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