たったひとりの君にだけ
あ、倒れる。
「め、芽久美さんっ!?」
だけど、覚悟していた衝撃は一向に訪れることなく。
そのかわりに、私を包んだのは力強い感覚だった。
「だ、大丈夫ですか!」
そして、視界が役に立たない一方で、それを必死で補うかのように聴覚が正常さを取り戻していた。
なんだかとっても必死に聞こえるのは気の所為だろうか。
「芽久美さん!」
「……う、うるさい、聞こえてる……」
だけど、耳に響いて仕方ない。
鼓膜が破れそうというより、聴神経が切れそうだ。
「もしかして具合悪いんですか?」
「……悪くないように見えるなら、君の目は節穴だよ」
こんな切り返しが出来るうちは、私はまだ大丈夫だろう。
うん、大丈夫。
確証はないけれど、もしも本当にインフルエンザだったら、病院にも行かずに何も対処せずに数日放置していた私は、今頃天に召されている気がする。