たったひとりの君にだけ

辿り着いた先、そのレストランの概観は落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
決して入りにくい類ではないものの、一人でふらっと立ち寄れるような場所でもない。

樹は重そうな扉を開き、私を中へと促した。


「いらっしゃいませ」


それほど背は高くない、物腰柔らかな青年が迎え入れてくれる。

誰が見ても思う整った顔立ち。
所謂、イケメンとやらに属するだろう。

私は軽く会釈をした。

既に食欲をそそる香りが漂っていて、書類片手に菓子パンひとつでランチを済ませた私にとっては実につらい香りだ。

気を紛らわせる為に壁に掛けられた絵画に目を向けると、穏やかな海の風景画で、遠くまで見渡せる和やかな印象を受けた。
レジ横に置かれた置物もなんとなくセンスを感じる。

けれど。
結局は、私の直感は間違ってなかったわけだ。

明らかに、店のチョイスに悪意を感じる。
私は気付かれぬよう溜息をついた。

絶対に間違っても大声なんて出せないだろう。
任せたのがそもそもの間違いだったのか。

策略とさえ思う。
絶対に肩が凝る。
完全個室は考えられない。

キオナみたいな場所を指定すればよかった。(キオナをバカにしているわけじゃないけれど)
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