たったひとりの君にだけ

そうこうしているうちに、また別の店員がテーブルに来る。

シャープな輪郭、すっとした鼻筋。
やっぱりこの店はイケメンしかいないのか。(ホストクラブじゃないのに)


「本日はご来店誠にありがとうございます。お料理の方は、バレンタインデー特別コースをおふたつでよろしいでしょうか?」

「はい。予約のとおりで。あと、料理に合いそうなワイン、適当に見繕ってもらっていいですか?ボトルでいいので」

「畏まりました。少々お待ち下さいませ」


一礼して、また去る。
暫しの沈黙が流れるなかで、私は真っ直ぐに上を向く小さな炎に視線を向けていた。


私としては、善は急げでも。

切り出すのは、ワインが到着してからの方がいいのだろうか。


少なからず空気を読んでしまう。

カップルばかりであろうこの空間で、本来ならばすべき話ではないと自覚しているからだ。
< 322 / 400 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop