たったひとりの君にだけ
そうこうしているうちに、また別の店員がテーブルに来る。
シャープな輪郭、すっとした鼻筋。
やっぱりこの店はイケメンしかいないのか。(ホストクラブじゃないのに)
「本日はご来店誠にありがとうございます。お料理の方は、バレンタインデー特別コースをおふたつでよろしいでしょうか?」
「はい。予約のとおりで。あと、料理に合いそうなワイン、適当に見繕ってもらっていいですか?ボトルでいいので」
「畏まりました。少々お待ち下さいませ」
一礼して、また去る。
暫しの沈黙が流れるなかで、私は真っ直ぐに上を向く小さな炎に視線を向けていた。
私としては、善は急げでも。
切り出すのは、ワインが到着してからの方がいいのだろうか。
少なからず空気を読んでしまう。
カップルばかりであろうこの空間で、本来ならばすべき話ではないと自覚しているからだ。