たったひとりの君にだけ

「……なぁ」


暫しの静寂の後。
正直に連ねた言葉の後で、樹が左手で頬杖をつきながら沈黙を破る。



「なんでクリスマス前に別れるって決めてんの?」



突然の質問は、言わば当然の質問だった。

180度とは言わずとも、45度の転換を強いられる。
しかも、私が一番触れてほしくない部分。
有利な立場の樹は軽々と踏み込もうとする。

低音で威圧感のある声に、心臓が重い鼓動を打ち始める。
聴覚がやられそうで、即座に言葉を返せない。


「おい、聞いてるのか?」


勿論だと、口にすることさえ億劫になっていると、無視されていると思ったのか樹の舌打ちが聞こえた。

一言では言い表せられない。
只ならぬ圧力を感じる。

それでも。

言いたくない。
教えたくない。
認めたくない。

だけど、少なからず神村樹には、それを知る権利があるんだと思う。


前に進みたいと思った。
だから、曝け出すことが苦手でも向き合おうと決めた。

わだかまりを残したまま、想い人に想いを伝えたくない。

穏やかな気持ちでいられたり。
逆に鼓動を速めたり出来た相手の。
言うなればその胸の中に、このままじゃ飛び込めないと思ったから。

そう、これは自分が撒いた種だ。

汚い部分はもう見られてる。
それでも、初めて本気で好きだと思った人だから。


飾りたいわけじゃない。

ただ、真っ直ぐで綺麗な君に、少しでも近付けたらと。


それなのに、いざとなるとやっぱり上手く言葉を紡げない。
そう聞かれることを、きっと、1%も予想していなかったわけじゃないのに。
それが、私達の確執の根本なのに。

唇は、正しいままに動かない。
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